| 巻頭の言葉
『グローカル』創刊号に向けて
2001年の4月、フェリス女学院国際交流学部に国際交流研究科が開設されました。これで国際交流学部は名実ともに教育と研究
を両立させる本格的な学術センターになりました。
本格的な学術センターと言いましたが、しかし、私たちは従来からある大学院の性格をそのまま踏襲しようとしたのではありま
せん。グローバリゼーションの時代は、ヨーロッパに始める世界の近代化がいよいよその完成にまで達したことを物語っていると
同時に、近代世界の進化がその頂点に達して大きな曲がり角に直面したこともしめしています。科学技術の発展を信じ、その行く
先に解放の領域を夢見た近代は、さまざまな制約にぶつかって、いまでは戸惑いのなかで揺れ動いています。昨年9月11日の事件
とそれに続くハイテク化された「戦争(?)は、双方ともに、科学技術の先端が科学技術によって支えられた現代文明の破壊に向
かっているのではないかという疑念を、言い換えれば科学技術文明の自己破壊衝動への疑念を、かき立てることになりました。は
たして人類の将来はどうなるのかという問いが避けられなくなっています。
進化と発展をたどってきたとされる近代について、私たちはその歴史を振り返り、そこに問題は無かったかどうかをあらためて
吟味しなければなりません。また、未来の可能性について、これまで当然のことと信じてきた前提を再検討しなければなりません
。近代以来の社会科学そのものも、再検討の対象から外す訳にはいきません。
私たちは、近代の社会科学が文化や宗教を対象とする人文科学から自立して専門領域の細分化に進んできたことについて、疑問
をもたずにはいられません。また、科学技術の発展がマイナスのモーメントを避け難く内包しており、数々の環境破壊を生み出し
ているという事実を目にして、社会科学自然科学の分離を推し進めてきた近代の学問を、根本から問いたださねばならないと考え
ています。専門性の高度化が科学の発展を進めてきたことは間違いありませんが、専門性の高度化が過剰なまでに専門家の地位を
高め、彼らに独善的支配力を与えてしまったこと、それによって社会から全体を見る目が失われてしまったことも事実なのです。
現代ドイツの社会学をリードする研究者として知られるウルリフ・ベックは科学技術の独善を批判し、『危険社会』(原文、198
6年。邦訳、1998年、法政大学出版局)の到来を警告しています。彼は科学技術の自立性をこのまま認めるべきではないとし、科
学技術も専門外の人々が発する批判(「新しい社会運動」として現れる批判)に耳を傾けなければならないと主張しています。ベ
ックは「自己再帰性」(self-reflexivity)のもつ重要性をしきりと論じていますが、その主張の中心には、現代の科学技術が社会
のなかに還元され、そこにおける批判のまえに透明化されなければならないという判断があるのです。
いま、大学について、一方では、企業との結びつきを強めて先端技術開発のセンターにならなければいけないという声が高まっ
ています。現代の大学が、これまで理想とされてきた「象牙の塔」のままでいられなくなったことは確かでしょう。しかし、大学
は企業の研究所になればよいのだといわんばかりの論調に対しては、それは違うとはっきりと主張しなければなりません。私たち
は、専門分化の道をひたすら走りつづけてきた近代の学問に疑問符を付け、社会科学を日常のただなかに連れ戻すという新たな道
を開拓してゆかなければなりません。私たちの大学院が夜間の講座を開き、社会人として職業生活を送っている人達を積極的に受
け入れることとしたのは、以上のような意味で大学院の性格を大幅に組み直す必要があると考えたからに他なりません。
私達の大学院は、発足の一年目に青年海外協力隊での活動経験をもつ三人の院生を迎えることができました。この創刊号は、こ
れらの三人の社会人院生による講演からなる特集号としてスタートすることとなりましたが、このことは、グローバリゼーション
の時代にふさわしい大学院に関する以上のような私たちの構想が、まさしく、意味ある試みであったことを証明する成果だと言え
るでしょう。大学を卒業してストレートに院生となった学生にとっても、社会人院生との交流は大きな励みであり、刺激になって
います。そればかりでなく、実社会の経験に乏しい教員スタッフにとっても、社会人院生との交流は貴重な情報源であり、発送の
源となっています。
「私にできること―体験的国際交流論―」を掲げた講演会は、学部と大学院の学生が拠出した基金によって運営されている国際
交流学会によって主催されました。当日は沢山の学生が出席してくれました。また、多くの教員スタッフも参加してくれました。
この貴重な催しを企画してくださった学科主任の大野英二郎教授に、さらに司会役として当日の会を運営してくれた院生・学生の
皆さんに、心から御礼を申し上げます。
2002年1月21日
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