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 グローカル第4号

 巻頭の言葉
 『グローカル』第四号の発刊にあたって

 イラク情勢の泥沼化、パレスチナ問題の混迷、ブッシュ大統領の再選によるアメリカの単独行動主義継続の可能性、日と北朝鮮との関係の悪化、日本での平和憲法を「改正」する動きの強まり、地球環境のいっそうの悪化など悲観的な状況拡大するなかで、東北アジアと東南アジアを包摂する「東アジア共同体」創設の動きが注目され、期待されています。実際、2005年秋、マレーシアでASEAN(東南アジア諸国連合)と日本、中国、韓国による東アジアサミットの開催が予定されています。
 この「東アジア共同体」の創設が実現できるのか、創設できたとしてもいずれ世界のグローバリゼーションの巨大な波にのみこまれてしまうのではないか、「東アジア共同体」自体がグローバル化して強者が弱者をおしつぶす機構にならないか各地域の多様性を尊重しつつ域内の政治の安定と経済的繁栄を保障する機構になりうるのか、これらはまだ未知数で、明確な見通しをたてられる段階ではありません。しかし、「東アジア共同体」構想にはたしかに期待をもたせるものがあります。
 その理由の一つは、「東アジア共同体」構想が成立するうえで、東南アジアの小国連合であるASEANが重要な役割をはしているからです。ASEAN は1967年に東南アジアの5 つの反共的な国家(インドネシア、フィリピン、シンガポール、タイ、マレーシア)が結成した地域協力組織ですが、冷戦終結後の1990年代には、社会主義国のベトナムなどが加入したことにより、ASEAN は東南アジア10か国すべてをふくむ政治体制の相違をこえた地域協力機構になりました。さらに1994年、ASEAN のよびかけで日本、中国、韓国、アメリカ、ロシア、EU などが参加し、アジア太平洋地域における安全保障について協議するASEAN 地域フォーラム(ARF)がはじまりました。
 このようにASEANが発展してきたのは、各国の主権を尊重してたがいに内政干渉せず、コンセンサス型の運営をつらぬき、各国間の信頼関係を作るために長い時間をかけてきた東南アジアの人々の知恵と努力があったからです。もちろんASEAN は、内部に域内の経済格差、各国の内部での貧富の差・人権抑圧・民族対立など多くの問題をかかえています。しかし、東南アジアの国々がASEAN のようなゆるやかな協力体制をつくりあげ、この小国連合が東アジアの地域協力に主導的役割をはたしていることは、世界史において画期的な出来事であり、大国中心のグローバル化の波にたいするするどい批判とみることができます。
 第二に、「東アジア共同体」の構築によって、東北アジアの国々の関係改善と地域協力をすすめることも期待されます。日本と韓国の関係はこの数年、大いに改善されてきていますが、この構想にとって欠かすことのできない日本と中国との関係は、経済面で緊密さをましているにもかかわらず、靖国問題に象徴される歴史問題や資源問題などによって政治面では冷えこんでおり、さらに両国の民衆のあいだに相手国にたいする反発、さらには排他的ナショナリズムが強まっていることなどのために、改善の展望
がひらけないでいます。
 「東アジア共同体」構想は、この困難な日中関係の改善を打開するための切り札となる可能性があります。この構想に積極的にかかわっていこうとすれば、日中両国政府は否応なしに接触をふかめ、相互の不信感を低めて、協力関係をつくる努力をする必要があるでしょう。そして政治面での関係改善がすすめば、両国の排他的ナショナリズムも弱まり、日本における右翼的政治潮流の拡大の原因の一つが減少することにもなります。
 日中関係の改善には、なによりも政府間の信頼の醸成が不可欠ですが、民衆レベルの不信感や敵対感情を是正することはきわめて重要であり、この分野では私たちにできることが少なからずあります。すでに日本と韓国とのあいだには、スポーツやテレビドラマなどの文化交流をつうじて感情的共感が拡大しつつあります。民衆レベルの交流は、北朝鮮とは今すぐはむずかしくても、中国とのあいだではもっと創意的で多彩な試みができるはずです。
 現在のところ、「東アジア共同体」構想はまだ将来の夢の段階かもしれません。しかし、私たちはこの夢の芽を大切にそだてる必要があります。そのためには大胆な発想の転換と斬新な構想力をもたねばなりません。初代の国際交流研究科長山之内靖先生は、大学院の「創設の言葉」で「私たちの大学院は、既存の知がその有効性を失ったことを見定め、21世紀型の新しい知を模索してゆかねばならない時代がきた、そう自覚して発足しました」と述べています。大学院の発足から5 年目となる2005年をむかえて、今日の時代状況にいたずらに悲観するのではなく、「新しい知」の創造に努力し、それにもとづいて私たちにできる行動をおこしていきたいものです。
 国際交流研究科には、現在、博士前期課程14人、博士後期課程3 人(うち1 人はバングラデッシュ人)の学生が所属しいます。そして今年度も、かれらの研究活動をまとめた『グローカル』第4 号を発行することができました。この号には2004年11月1 日及び2005年2 月15日にそれぞれ池上彰氏、熊岡路矢氏をかこんで行なわれた院生研究会の記録、同年1月に提出された修士論文の要旨、および院生研究会で発表された修士2 年次生の報告要旨からなっています。池上氏はNHK の報道記者主幹・「週刊こどもニュース」のお父さん役で、『そうだったのか、現代史』など啓蒙的な本を刊行されてきた方で、その軽妙な語り口と報道記者らしいするどい分析によって私たちの知見を大いに高めてくれました。熊岡氏は日本のNGO の草分け的存在、日本国際ボランティアセンター(JVC)の代表で、日本の政府開発援助(ODA)及びJVC をはじめNGO の活動について歴史的に考察され、現在の課題を浮きぼりにされました。また修士論文はそれぞれ力作ですし、2年次生の報告も各人の研究の努力を示すものです。この冊子が読者の「新しい知」の探索にとって少しでも役にたてば幸いです。

2005年3 月31日
大学院国際交流研究科長
石島 紀之

目次

第1 部 2004年院生研究会

 

「こどもニュース」から世界を読み解く

池上 彰

日本のODAとJVCの活動

熊岡 路矢

第2 部 修士論文要旨

 

女性に対する暴力
    ―DV、ストーキングの加害者特性から暴力根絶を考える―

岩崎 仁美

18−19世紀のヘッジ・スクールにみるアイルランドの民衆教育

石垣 里枝子

日本の女性の地位向上における女性NGO の活動と国連
    ―国連加盟前後を中心に―

楳本 春子

第3 部 研究報告

 

カナダ先住民の虚像と実像

秋吉 啓子

横浜とアジアの反帝国主義

鈴木  晶

陶山篤太郎と川崎
    ―川崎における現代化プロセスの一考察―

眞有 経子

明治期一キリスト者の思想と闘い
    ―矢嶋楫子とキリスト教―

熊田 京子
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